2010年第12回学術大会・特別企画2

吉村 惠先生インタビュー(平成22年5月8日)

話し手:吉村 惠(熊本保健科学大学大学院 保健科学研究科 教授)
聞き手:荒木 寛志(フィニッシュ・カイロプラクティック研究所)

齋藤;2年前の当学会の第10回記念学術大会におきまして、熊澤先生の「痛み学」の研究会のメンバーであり、当学会の理事であります守屋徹さんが「痛みのケアを考える」というワークショップを行いました。それで2年後の今年、さらにもう一度、「痛み」をメインテーマに学術大会をやろう、基調講演は熊澤先生にお願いしよう、ということになりまして、熊澤先生のところにお話を伺いに上がるとともに、講師のご依頼をいたしました。そうしましたところ、「自分はお受けすることはできないが、代わりにそちらの学会のテーマにあった素晴らしい先生を紹介します」ということで、吉村先生をご推薦いただきました。 快くお引き受けいただきましてありがとうございます。それで今回、吉村先生のお話を当学会のホームページや私どもで発行しているカイロ-ジャーナルに掲載して、大いに宣伝しようとお邪魔いたしました。よろしくお願いいたします。

荒木;腰痛を訴える患者さんが、病院から「椎間板ヘルニア」と病名をつけられてお見えになるのですが、医師の説明ではヘルニアが神経を圧迫して痛みが起こっているとのことなんです。解剖学や生理学の本を見ても、ヘルニアが後方に脱出したとしても、まず前根が圧迫されますから遮断が起こると脱分極しないわけですから、最初に麻痺が起こると思うんです。では何故、麻痺が起こらずに先に痛みが起こるのか? 圧迫した状態が何故選択的に感覚神経を先に刺激をしてしまうのか? というところが私どもの合点がいかないところなんです。

荒木
吉村;最近の話としては、前根、後根そのものの圧迫というよりは、髄核が出てきますといろいろな炎症性の化学物質が遊離されます。髄核そのものから出ることもあるし、血管が圧迫されて血管の透過性が変化し様々な炎症関連物質が放出されるのではないかと考えられています。そのような物質は神経線維や後根神経節に働いて炎症等が起こると考えられています。
吉村

荒木;標的は後根神経節なんですか?
吉村;主たる作用部位としては、後根神経節が考えられます。ただ、感覚神経には痛みを伝える無髄の神経線維が含まれていますので、そのような細く、無髄の線維には作用はするかも知れません。しかし前根の線維は、ほとんどが径の大きな線維ですので、障害を受けにくいのかも知れません。だから感覚の方が先にやられる。運動神経の方はファイバーだけですので、そういう障害は受けにくいというのがありますよね。後根神経節は感覚神経だけですから、そこに化学物質が作用して、それによって細胞の興奮性が変わったり、自発性の発火が起こしたりというのが今の研究の流れです。ただ、神経の圧迫だけではそれは起こり難い。MRIを撮ると、実際に神経を圧迫されているけども痛みのない人は沢山いるわけですから、その辺はおかしいな、という話はあったんです。そこで後根神経節にTNF-αなどのサイトカインが働いて細胞が興奮し、それが脊髄に入って痛みが出てくるようなことが起こります。
荒木;では局所の腰部痛は、大脳で腰部の痛みとして認知されるんですが、坐骨神経痛のような遠位に及ぶ痛みというメカニズムは、それで説明できるんでしょうか?
吉村;(図で説明しながら)後根神経節の中の細胞体から枝が末梢に伸びていって、脚の筋肉などからの感覚情報を脊髄に伝えていくということになります。ですから、この細胞が興奮すると脳としては「脚が痛い」と情報が入るんです。それから近くに細胞が沢山あって、それが一緒にやられますから、腰部の筋肉に対してもその情報が脊髄に入って行きます。ですから腰痛とそれからこの神経が伸びて行っている先の筋肉が痛いという感覚は起こってくるんですね。
荒木;細胞体からのニューロンが末梢の筋肉や皮膚を支配しているわけですから、痛みとしては脳が認知するということですね。
吉村;ここ(脚)には炎症はないわけです。しかし脳としては、脚の情報は脳に上がっていきますから脚の痛みと感じるんです。

荒木;この細胞体というのは、解剖的にどの辺をイメージしたらいいんですか?
吉村;感覚線維の細胞体は後根神経節にあります。その細胞体からは枝、つまり軸索が出て2つに分かれ、一本は末梢の筋肉や皮膚に、もう一方は脊髄に入っていきます。そこで後根神経節の細胞が活動電位を出すと、それが投射ニューロンに伝えられ上位中枢に痛みの情報が上がっていきます。脊髄から感覚神経が出ていくのではなく、脊髄に感覚神経が入ってくる。つまり後根神経節の細胞体で炎症、または何らかの異常が起こると細胞は活動電位を発生し、それが脊髄に入ります。また、その細胞は末梢ではある筋肉または皮膚を支配していますから、大脳皮質は痛みがあたかも末梢の筋肉、または皮膚から伝わってきたと勘違いするわけです。
荒木;では後根神経節からの炎症情報が下行していくということですか?
吉村;確かに、後根神経節で起こった活動電位は脊髄のみならず、末梢にもその情報が下行していきます。後根神経節の細胞が活動電位を出したとしますね。そうしますと脊髄にも末梢にも両方に情報は伝わるんです。C線維などはサブスタンンスPなどを含んでいます。そうしますと活動電位が末梢にも伝わるのでそういうものが末梢で放出されるという可能性があります。そうなると末梢で血管の透過性が変わったり、色々な物質が放出されたりしますよね。そうすると筋肉自体が硬くなったり、痛みを感じたりということがありうる訳です。
荒木;ということは末梢での痛みを感じるということは、後根神経節や神経線維がヘルニアにより圧迫されることで炎症が起こり、そこに化学物質が遊離され、後根神経節細胞や神経線維の興奮性が増大し、その結果、それらの線維に含まれているサブスタンスPやCGRPなどの物質が末梢から放出される。それとともに、その情報が脊髄へと上行して末梢の痛みとして認知されるということですね。では、骨折や打撲などでケガをして組織の損傷が起こった場合、ケガが治っても痛みが消えず慢性痛に移行するケースもあるわけで、そのメカニズムはどういったことが考えられるのでしょうか?
吉村;例えば打撲などの損傷を起こしたときに、傷が治った後で痛みが出てくるというのが一番の問題だろうと思うんですけど、多くの場合がその受傷時に神経の損傷を伴っているというのが多いんですね。これが神経因性疼痛ということになると思うのですが。
荒木;ということは、神経周膜や内膜まで神経自体が断裂しているということですか?
吉村;そうですね。特に末梢の細いC線維は髄鞘がないため損傷されやすいということがありますよね。傷としてはそこで一応治癒するんですが、損傷された神経の再生は少し遅れます。神経が治癒するときに再生というのが起こります。再生過程の途中では組織学的な変化が起こってきますが、その変化は発生過程の繰り返しみたいなことが起こります。これは生物学的には一般的には認められていることです。神経の損傷が起こると神経の再生が起こります。このとき、神経がどのように再生していくかは神経が幼若期に発生を起こすときの過程と非常によく似ています。ここで何が起こるかというと、Naチャネルというのがありますね。これが活動電位を起こす、つまり情報を伝えるために一番大事なチャネルということになります。このNaチャネルには正常で成熟した動物ではNa1.9、Na1.8、Na1.7いうようにタイプがあるんです。しかし再生の過程では、Na1.3というものが最初に多量につくられます。Na1.7はテトロドトキシンに感受性があってブロックされます。だからフグ毒を食べた時に唇が痺れる、筋肉が動かなくなって呼吸が止まることになります。Na1.9、Na1.8はテトロドトキシンではブロックされないチャネルで、痛みの伝導には関係していますが、筋肉を動かしたりすることにはほとんど関係していません。神経が損傷して再生していく過程では、Na1.9、Na1.8が減ってNa1.3が出てきます。このNa1.3は前にも述べたように、発生時に神経が伸びていくときに出てくるチャネルです。問題はこのチャネルは興奮しやすい、つまり活動電位を出しやすいチャネルです。もう1つは量の問題で、これが沢山出てくると閾値が下がる。つまり活動電位が発生しやすくなります。

荒木;このNa1.3は痛みに関与するんですか?
吉村;これは痛みに関与する神経に発現してきます。例えばC線維とかAδ線維です。今まではNa1.9、Na1.8など、テトロドトキシンに抵抗性のチャネルが発現していたのですけども、C線維の膜にNa1.3が沢山発現してくるんです。そうすると簡単に活動電位が発生するんですね。
荒木;そうしますと、損傷で組織の再生が起こっている場所は過敏になってくると。 吉村;過敏になってきますね。そして、活動電位が沢山発生するのは末梢だけの問題なんですけど、これが持続しますと末梢だけの問題ではなくて、今度は中枢側、つまり脊髄の中で可塑的な変化が起こってくるんです。これには沢山の報告がされているんですけど、1つはGABAというのがありますね。これは抑制性の伝達物質で、これを含んでいる細胞が脊髄内にあるんですけど、このGABAを含む細胞の数が減るとか、GABAの作用が弱くなってしまうという報告があります。最近の研究で九大の井上先生によれば、末梢の神経に損傷が起こるとグリア細胞の中のミクログリアというのが活性化され、その結果、神経成長因子の1つであるBDNFがミクログリアから分泌されます。このBDNFは、間接的に働いてGABAの作用を抑制し、脊髄の興奮性を高めて興奮しやすくします。GABAはそれまでは抑制性の応答を起こし、痛みの伝達を抑制しているのですが、BDNFが放出されると抑制性の作用が興奮性に変わるんです。これはBDNFがトリガーになって、そういうことが起こるというのが報告されています。実際にそうなのかどうかというのは、もう少し時間がかかるでしょうが。だから末梢神経の損傷に引き続いて慢性疼痛の移行する場合は、末梢がまず1つのトリガーになるわけです。末梢で活動電位が沢山出て、その結果脊髄にそのような変化が起こってくる。
もう1つ面白いのは軸索発芽というのがあります。これを話し出すと時間がかかるんですが、Aβ線維というのがありますね。これは触覚とは圧覚とかの感覚を伝えるんですけど、その感覚情報が脊髄に伝えられる場所というのが、後角の第3・4・5・6層という深い場所です。ところがこの軸索発芽が起こると、第1・2層に入ってくることになるんです。
荒木;AδとC線維が入る所に入っていくということですね。
吉村;はい。AδとC線維が入ってくる第1・2層は痛みに関連した部位で、この部位にAβ 線維が入ってくると、触っただけでも痛みが出るアロデニアという現象が起こってくるんです。これも1つの可能性としてあるでしょう。例えば神経を切断したとか部分的に結紮したとかで末梢の炎症も起こってくるんです。

荒木;私が以前報告した論文で、触刺激を下行性疼痛抑制系に絡めたものがあるんですけど、打撲したら擦ると痛みが治まるという記憶があって、Aβ刺激が下行性疼痛抑制系を発現させたのではないか、もちろん記憶として、パペッツ回路など含めてというものを出したことがあるんですが。私が一番気になっているのはその発芽なんです。一度発芽すると伸びたままですか?
吉村;戻ってきます。
荒木;戻るんですか?そういうのは本に書いていないですけど。
吉村;ええ書いてないです。これを発表したのはアメリカのハーバード大にいる人でして、その人に聞いた限りでは、切断した後9カ月ぐらいしたら元に戻りますよ。という話でした。これは再生が起こっているんですよね。
荒木;その再生過程ですが、痛みの線維が入る後角に側芽が起こりますが、その側芽が戻るんですか?
吉村;戻るんです。
荒木;投薬なしで、ですか?
吉村;何もなしで。大体ですね、慢性疼痛というのはそもそも一生続くものはそんなにないんですよ。大抵のものは数カ月とか数年とかいうのがありますけど、どこかの時点で戻ってくるんですよね。ところが痛みがあるために、今度は心因的なものが加わってきます。心の問題が加わってきてそれで修飾してしまう。結局、それで痛みに対しての不信、医師に対する不信などいろんなものがあるんです。それがズーと痛みを引き延ばしてしまう。組織学的には、ほとんど元に戻っているにもかかわらず痛みが続いてきます。そうなるとちょっと難しいです。

荒木;吉村先生には沢山の情報をお聞きしたいのですが、時間の関係がありますのでとにかく私共が一番知りたいのはヘルニアによる神経の痛みにについてなんです。
吉村;はい、慢性疼痛がどういう風にして起こってくるのか。
荒木;それもですね。それと先ほどの発芽のことも、私は初めてのことで嬉しかったんです。その戻るというのが…。
吉村;ラットは坐骨神経を切断すると、最初は後肢を引きずって歩いているんですよ。そのうち、だんだんと歩き出して最後はわからないぐらいに普通に歩くんです。おそらく再生しているんです。人間の場合はそんなにスピードは早くないんです。神経が長くて距離もありますから難しいんです。
荒木;人間の場合は大脳(発達の差)があるからなんですかね?そうしますと薬で効く痛みと効かない痛みというのがあるんですけど、心因的なものがあるんですかね?
吉村;もとろんプラセボ−というのがありますから、信頼している先生から「この薬は効きますから」と言われると効くわけでしょう。全然信用していない先生からもらった薬は効きませんよね。そういった心理的な問題はあるとおもいますね。
荒木;データ的にいいものが薬になっていると思うんですけど、薬理的にも痛みに対して効かないものはあるんですか?
吉村;それはもう神経因性の疼痛になってきますかね。最終的にはモルヒネまで使ってもなかなか効かない。ギャバペンチンやプレギャバリン(抗てんかん薬 難治性疼痛治療)が使われだしてある程度効きますよと話があります。
荒木;モルヒネの6.5倍の鎮痛効果のあると言われるエンケファリンでしたか、実際そんなにあるんですか?
吉村;エンケファリンそのものはオピオイドの中の1つなんです。モルヒネなんかと同じ種類の薬ですね。エンケファリンそのもので臨床に使われている薬剤はないんですね。エンケファリンは生体中にあるんですね。動物実験ではもちろんエンケファリンは用いますが、臨床的には他のモルヒネ用の薬物を使いますね。
荒木;私はモルヒネとエンケファリンは別の物と思っていました。モルヒネの注射がありますよね。それとエンケファリンの鎮痛効果を比較するものはないんですね。
吉村;ええ難しいですね。生体内のモルヒネ様物質とケシの花から加工したものを比較するのはね。実際に商品化されている中にはエンケファリンは入ってないですね。
荒木;インターネットでモルヒネの6.5倍と書いてあったものですから、脳内の下行性疼痛抑制系は凄いものだということで触刺激での疼痛緩和というのをやり出したんですよ。その強い疼痛抑制系が脳内にあるのが分かれば私共としてはとても大きいんですよ。
吉村;それは物凄く大きいですよ。だから何故そんなものが生体中に存在しているかということです。例えばランナーズハイというのがあるでしょう。あれなんかそうですよね。あれはβエンドルフィンが放出されて多幸感とか痛みを感じないとか、どこまででも走って行けるという自信がついてワクワクするような感じがありますね。それもエンケファリンの仲間ということになるんですね。それがエンケファリンを介して作用しているかβエンドルフィンがそのまま作用しているかははっきりとはわからないですけど。
生体内にある抑制系、それにはエンケファリンがあるし、βエンドルフィンがあるし、セロトニン、ノルアドレナリンなども結構大きな作用をしています。それは最終的には脊髄のレベルに降りてくるんですね。
荒木;それは脳幹から後角に下がってくるんですが、一気に後角にということはあるんですか?
吉村;セロトニンとノルアドレナリンに関しては一気に脳幹から直接後角です。βエンドルフィンは恐らく直接ではないでしょうが。セロトニンやノルアドレナリンが脊髄後角に降りてきて、痛みを抑えているという考えはその作用様式から考えて妥当と考えられます。つまり、セロトニンにしてもノルアドレナリンにしても痛みだけをセレクト(選択的)に抑える事が出来るんです。他の感覚はあまり抑えられないんです。つまり触覚とか圧覚とかは抑えられず、痛みだけが抑えられる。もし脊髄より上の方で効くとすると、上の方は末梢から入ってきた情報は色んな統合を受けたり修飾されたりして上に上がって行くでしょう。だから痛みだけセレクトに抑えるというのは難しくなってくるんです。そうすると入って来た段階ではC線維は痛みを伝えるAβ線維は触覚を伝えるというように分かれて脊髄の別々の所に入ってくる。だから痛みだけセレクトに抑えるという為には脊髄レベルが一番向いているんです。だから上からわざわざ長い線維を伸ばしてセロトニン、ノルアドレナリン、それとエンケファリンの系もありますけど、そういうものが下りてきているというように思われるんですけどね。私が思うのは恐らく脊髄レベルで効いていると思います。特にセロトニン、ノルアドレナリンに関してはですね。ただエンケファリン、βエンドルフィンに関してはもっと上の方で効いているという説もありますね。PAG(中脳水道灰白質)の部分でエンケファリン、βエンドルフィンが効いているんではないかという話もありますね。

荒木;痛みに脳脊髄液の循環というか何か関係しているんですか?
吉村;それはちょっと。報告はあるかもしれませんが、今のところ一般に受け入れられていないんじゃないですかね。ただ放出されたものが、脳脊髄液の中に溶け込んで測ったなら少し増えていますよ、ということはあると思います。それで効いてくると、それがどこに効いているのかということになります。ちょっと難しいという気がしますね。

荒木;沢山お聞きしたいんで。我々が肩の治療をしている最中に、例えば腰に痛みが来たとか頸に痛みが来たと訴える患者さんが結構いらっしゃるんですよ。
吉村;治療の途中にですか?
荒木;ええ。極端な場合、足を触っていると「先生、頭に来ました」とかあるんです。
吉村;そうなんですか?
荒木;多いんです。それは何ですか?
吉村;それは初めて聞きましたね。
荒木;酷いと言うかオーバーと言うか、筋肉がピクピク動くんですよ。頭を触っている時に足がジンジンしたりピクピクしたりするので患者さんに聞いてみると、昔そこにケガをしたとか、昔捻挫しましたとか言うんです。個人的にはケガが瘢痕化して結合組織が記憶して、先ほど話した施療時の触刺激が快情報として、何とか早く治そうとしてそのケガの部分にターゲットを絞って血行をよくするということなのかと思っています。だから治療中にそれが起こると「あ、そこが悪かったんだ」というような指標にもなります。 このように治療しているポイント以外に遠隔的に起こる痛みというか疼きみたいな現象を医学的に説明できるものなのかという疑問があります。
吉村;そのときには痛みなんですか?
荒木;痛みという表現もありますし、疼き、痺れ、不随運動もあるんです。
吉村;そうなんですか。
荒木;そうなんです。全員集合みたいになるんです。でも全ての人が全員集合ではなくてその人特有の反応で痛みだけの人もいます。
吉村;それは我慢できないというほどの痛みではないんですね。
荒木;そうです。1〜2分すると次第になくなって行くんです。
吉村;腰にそれが出たら腰の痛みが楽になくなって行くんですか?
荒木;それが腰には自覚症状はないということです。過去の外傷なり過去の痛みが蘇って行くような感じです。身体感覚表現というような感じですかね。
吉村;それは何かの記憶とのコネクションがあるんでしょうね。過去に損傷されたときに大脳の一部にその痛みの感覚情報が伝わっていて、それが記憶として残っている。そこに何らかの圧迫とか加わったときにはそれが出てきて過去の痛みが起こってくる可能性はあるかもしれませんね。
荒木;ん〜、これは無しにしましょう。難しいです(笑)。
吉村;そうですね。難しいですね(笑)。
荒木;というのは、カイロプラクターはいろいろなテクニックでやっています。例えばポキッと音が鳴るような脊柱の矯正をしたり、局部をギューと強く押したり、軽く触る人もいたりで色んな先生がいますので、これがカイロプラクティックであるとは言えないんです。ただ軽く触った方が確実にこの反応が出ます。
吉村;そうなんですか。それは下行性抑制系を活性化するということで?
荒木;ええ、刺激が自己組織化というか再生化というのが起こるのかな?という期待を含めて質問させて頂いたんですが。
吉村;人間の身体は不思議なもので痛みが必要ですよね。しかし痛みが強すぎると、それを抑えようということが起こってきて、あまり強い痛みを感じなくする。例えば戦場で腕が吹っ飛んだりしますよね。そのとき痛みを感じない兵士が多いんですよ。恐らくそれは下行性疼痛抑制系ですね。つまりその戦場で自分の身を守るということでして、その場で判断能力を失うとまずいでしょ。その判断能力を保つためには痛みを抑えてどっちに逃げたらいいか、出血を抑えるにはどうしたらいいかという判断できるように一時的に痛みを止める。それは防御機構と同じですよ。ですから、そのような能力が生体内には付与されているのではないかなと思います。
荒木;ではその防衛機構が働くというのは脳幹レベルでの判断になるんですかね。
吉村;それもありますね。ただ脳幹レベルといっても、その元になるのはもうちょっと上で大脳皮質からの命令も行きます。青班核とは縫線核とかは大脳皮質や視床下部から中脳水道灰白質を介した入力がある。それから辺縁系からの入力もあります。だからより高いレベルからの入力があって青班核と縫線核を刺激してセロトニン、ノルアドレナリンが脊髄に放出されるというのがありますから、だからこのレベルで分けてはいないと思います。
荒木;強い痛みを抑えるというのは凄く興味があるんです。治療にもとても強い刺激を加えるものがあるんです。例えば捻挫した部位にギューと泣くぐらいの強さで押すと痛みが取れてジャンプすることも出来るんです。
吉村;私はマラソンしていて捻挫をしまして、そこをマッサージしてもらったらとても痛かったんです。その先生はその理念でやられたんでしょうが、足のコリは1週間ほど続きました。普通なら3日ぐらいで治まるんですが、ズーと続きました。
荒木;ですから刺激量というのが難しくて色々試しているんですが…。
吉村;そうですね。ですから末梢からの入力がどれだけ入った方が効果的かということになりますね。
荒木;そうですね。それも個人レベルがあってその人の体質や痛みに対する閾値の違い、それとどんな刺激が心地よく感じられるか、それとプラセボ−的には「あの先生は上手だから行ってごらん」となると、もう治療する前に既に効いていますから(笑)。
脱線してスミマセン。もう1つ、先ほどのグリア細胞のお話があったんですが、末梢神経ですとシュワン細胞になるんでしょうが、そこの圧迫で痛みが発生するんですかね?
吉村;髄鞘そのものの圧迫では痛みは発生しないと思いますね。髄鞘は神経を取り巻いていますから圧迫があれば間接的に神経に圧迫が加わりますね。
荒木;すると髄鞘自体を選択的に圧迫するというのは不可能なんですかね。
吉村;不可能とは言えなんですが、今の所そのような報告は私は知らないですね。髄鞘から何かの物質が出で、それが神経に働いて痛みを発生させるという報告は今の所ないんじゃないですかね。かえって逆に髄鞘がなくなって痛みが出るというのがあります。
荒木;脱髄ですか。
吉村;そう脱髄です。長崎の植田先生という方が報告されているのは、ある化学物質が放出されたときにそれが髄鞘に働いて脱髄を起こす。脱髄を起こすと面白いことに、普通であればC線維はC線維、Aβ線維はAβ線維とこれらは交わりはないんですが、脱髄が起こるとC線維とAβ線維から枝が出て回路が出来る。Aβ線維からの情報はC線維に伝わると言うんです。この回路をエファックスと言うんです。
荒木;その発芽はC線維とAβ線維のどちらから出てくるんですか?
吉村;そこまでは観られていないんですね。ただ脱髄するとこういうことが沢山起こってくるということです。これはどういうことかというと触刺激でC線維の方に情報が伝わるから痛みになる。だからアロデニアと同じですね。ただ髄鞘そのものが原因となってというよりは無くなってということなので髄鞘そのものの圧迫でどうなるか分かりませんね。ただ髄鞘の圧迫でシュワン細胞が死んでしまって脱髄になれば当然こういうことが起こるかもしれませんね。
荒木;この研究では人為的に脱髄を作られたのでしょうが、一般の生体ではこの脱髄は外傷で起こるんですか?
吉村;いや、外傷はそれほど大きな脱髄は起こさないです。多発性硬化症というのがありますね。あれが脱髄性疾患なんですね。これは末梢ではなく中枢です。この場合は痛みが出てきます。日本人に多いのは視神経の脱髄です。そうなると患者さんは眼が痛いと訴えます。そういう脱髄が色んな所に起こってきます。これはシュワン細胞ではなくてオリゴデンドロサイトで末梢とは種類が違いますね。この場合もエファックスを作っているという感じはしますが、これはまだ分かっていないですね。
荒木;このオリゴデンドロサイトは脳内でネットワークがありますよね。いろんなところに貼り巡らされているので、そういうことでどんどん痛みが広がるんですかね? 吉村;ん〜、それはちょっと分かりませんね。どうなんですかね〜。これはずーと枝を伸ばして神経を取り巻いていますね。それと血管と神経のバリアを形成していますね。だからそれがなくなると血管内の色々な物質にさらされてしまうという気もしない訳でもありません。
荒木;一応お聞きしたかったことはこれぐらいです。
吉村;しかし、本質的なことですね。

荒木;私共はイメージして治療しますので、例えばこういうことで後根神経節の炎症が起こっているんだなと。
吉村;最近そういうことになってきたんですね。当初は後根の圧迫、後根神経節の圧迫と言われていたんですが、いくら圧迫しても痛みが出ないことが多いんです。それでどうも違うと、それでTNFα(痛みや炎症を起こすサイトカインの一種)などの物質を後根にちょっとのせてやると痛みが出てくるというのが分かってきて、あーこれはどうも別の問題だと。ケミカル(化学物質全般を指す)な問題だと分かって来たんですね。という意味では痛みの研究は随分進んできましたね。原因がどんどん分かってきて、慢性疼痛は色々あるんですけど、その中にそれがどういう原因で起こっているというのが随分分かって来たんですね。最近大事なのは神経栄養因子。BDNF、NGFというのがありますね。それが関係している。神経栄養因子というのは再生と発生の両方共に関わっていて、それらに異常が起きて二次的に色んな現象がみられるというのが私の考え方なんですけどね。
荒木;その神経栄養因子自体が痛みに関与しているということですか?
吉村;発生過程と再生過程が同じと言ったでしょう。ところが私が考えているのは神経が損傷したときには発生過程を繰り返しているんだけども一旦成長してしまうと損傷して発生過程を繰り返しても正常な発生過程とは何らかの面で違うと思っています。ただそれが何だかは分かりませんけど。その為に慢性疼痛になる。普通子供の頃に発生して行く時には痛みはないですよね。それは正常な発生を繰り返しているからですね。ところが一旦成人になって損傷を受けた場合の再生は子供の頃の再生とは違う過程。過程としては同じなんですけど何かが違う。その為に慢性疼痛が発生するんではないかと思う。
坐骨神経を切断しても9カ月後には元に戻るといってもその間には痛覚過敏になったりそのほか何かありますからね。多くの慢性疼痛は一時的なものですね。一時的と言っても長さにはばらつきが物凄くありますけどね。ところが心理的な問題が入ってくるとそうはいかない。

齋藤;私の方からお聞きしたいのは、先生が九大を出られて疼痛学会で熊澤先生とお知り合いになられたのですか?
吉村;そうですね。私は1990年にアメリカから帰って来たんです。そのときに熊澤先生からお電話があって、痛みに対する研究班に入らないか、と言われてそれからですね。
齋藤;熊澤先生が今の整形は勉強しないし、痛みに関してコメディカルが負うところは大きくなると。
吉村;私もそう思いますね。私も熊本保健科学大学ではリハビリテーション科で、PT,OTさん達の一番の問題は痛みですよね。ここが痛いから伸ばせない。それを我慢しながら段々と可動域を広げるとかありますよね。そういう点では痛みと密接に関係していますよね。私は整形外科医というのは、どちらかというと写真(X線)撮ってMRIまでやればいいと、それで変形があれば鎮痛剤とシップ、そして、これで様子みましょう、というので終わっているんですよね。それじゃちょっと無理ですよね。整形で治らないから鍼灸師さんとか様々な所に行かれるんですよ。そういう意味では、代替医療というのは重要になってきます。
私がアメリカ(ニューヨーク)にいたときもそうだったんですけど、鍼灸師の資格を取るためにMDが30時間だったか、時間は忘れましたが講義(実習)を受けなければならないんです。それで初めて鍼灸師としての資格が取れる。そういう意味ではアメリカは日本よりも代替医療は進んでいるんですよ。
齋藤;そうですね。進んでいますね。
吉村;私もびっくりしたんです。アメリカみたいなところで。西洋医学だけでは治らないものもあるのではないか、と皆さん気づいているんじゃないですかね。特に骨折などの器質的な損傷を伴わない痛みに関しては。例えば腰痛症といってもシップを貼ったり鎮痛剤飲んで様子を見るのが一般的だと思いますよ。それでよくなる人も多いのですが、それだけではなかなかよくならない人も多いですね。この間マッサージしてもらったら、次の日からよくなって(笑)。
荒木;整形の先生は診断権があるから病名・症候名をつけるのが仕事なんでしょうけど、実際に臨床に携わっているのはPTの先生になっていますね。吉村先生はその点、熊本保健科学大学に行かれているので話がしやすいと思ったんです。整形の先生に話をお願いしても話がちょっと変わってくると思うので、とにかく、こういった見解で痛みに関して認識している。またこういったことも想定されるというお話が聞けると今後のアプローチの仕方の転機になると思うんです。
吉村;そうですね。

齋藤;吉村先生は科研費(科学研究費)は受けられていたんですか? 熊澤先生は、審査できない人が審査をしてるんだからダメだと。吉村先生は国から補助金を貰うとかは積極的にされているんですか?
吉村;私は積極的にやっていますよ。熊澤先生が大きな科研費を貰われて、その中の一員に加わってその中でやっていくので当然研究班員としての科研費は回ってくるんです。
齋藤;吉村先生は研究費に対して不満はなかったんですか?
吉村;それはありますよ。一番大きな不満はやはり一部の限られた大学に多くの研究費が配分されることでしょうか。地方の大学でもよい研究をしている方が一杯おられるんですけど、どうしても旧帝大に重点的にお金が流れて残りの部分を他で分けるという形になりますね。他の地方の大学でも突出している所もあるんです。だからそういう所にお金を出していくべきだろうと思いますね。それには研究内容による評価システムを確立することが重要だと思います。
それともう1つは、研究というのは多様性が必要で、いろいろな考えの基に研究をやるというのが大事だと思うんです。有名大学だけをサポートしても、ある程度方向性というのは決まっているんです。だから地方の大学で面白い研究をしている人たちにお金を出して育てたら、それが大きな流れになって新しい学問分野ができてくる可能性があるんです。ですから文部科学省は若い人たちをサポートすることをしないといけないなと思うんです。
それと大きな科研費があるんですけど、そういうのもそこら辺の関係で決まるところはなきにしもあらずと感じますね。
齋藤;決まっていますよね。COEなんかも評価するといっても、偉い先生ならAランクですもんね。
吉村;国は基盤の一番安いCランクをある程度広く渡すんです。白川先生のようなノーベル賞を貰った先生が言っているのは、自分がノーベル賞を貰えたのは、そういう風なお金を使った若い頃の研究が花開いて最終的にノーベル賞を貰ったと言っています。だから戦略的に上からドッと渡すのもいいんですけど、若い人たちに研究するお金を渡すのも重要だと思うんですけども、まだまだ十分ではないような気がしますけどね。その辺が思うところですね。
私は退官して、今のところ(熊本保健科学大学)で自分自身で研究をやっているんですよ。今、大学院生がどんどん増えてきていますので、あそこを痛みのメッカみたいにしていきたいですね。今はリハビリの先生と共同研究をやっています。それは感覚神経を記録して、骨折などの関節の拘縮があるでしょう。その後の回復のときには痛みが出るじゃないですか。動きがどういう風に変わってきたかを記録して、数学的に解析していくという実験を今始めているんです。それは非常に面白いと思っているんです。痛みは痛みであるんですけど、運動系、そして脊髄が関係していると思われている神経系なんかも影響してくるんじゃないかなと。全体的に脊髄レベルでやっていくということです。もう1つは、脊髄から2つ上がって大脳皮質の第1次体性感覚野からの記録とかですね。最終的に痛みに関して重要なのは、痛みの感覚が第1次体性感覚野にいって、指が痛い、という感覚があるでしょう。それは重要な感覚なんですよ。けれども問題なのは、痛みの経路は途中で側枝を出していくんです。特に脳幹の部分で。それが辺縁系の部分にいくんです。例えば扁桃体とか、前帯状回とか島とか。そういうところで情動変化を起こすんです。例えば痛みのために落ち込む、食欲がなくなる、眠れない、やる気がなくなるとか。そちらの方が痛みに一番問題なのだと思うんです。それさえなくなれば、痛みは痛みにしか過ぎないと思うんです。我慢できるんです。腰痛で仕事をしている人、肩が痛くても仕事をしている人は沢山いるわけでしょう。ところが、それに情動的な変化が起こってくると落ち込んでしまってやる気がなくなる。仕事ができない。休まざるを得ない。病院に行かざるを得ないでしょう。だから一番重大きなものは、最終的に痛みに伴う情動変化をいかに薬物または治療で抑えるかというのが一番大事なんではないかなと思うんです。製薬会社と話すときには、その辺がターゲットとするにはいいんじゃないかなと気がしますけどね。脊髄の中で、慢性疼痛の発生機序というのがありますけど、それから上に上がってそこでどういう風な情動変化が起こってくるか、それをいかに抑えてコントロールするか、というのが痛みの治療としては重要ではないかと思うんです。

荒木;慢性疼痛に関してのお話は先生にお願いしていましたかね?
吉村;ええ、いつくかのモデルがありますから、それについて話をします。例えばヘルニア、そして末梢神経の損傷を話したいと思います。
荒木;そうですね。組織的な診方と全体的な診方では変わってきますからね。
吉村;ええ、そこら辺をわかりやすく話していこうと思います。
荒木;先生が今ご研究されている帯状疱疹後神経痛ですが、睡眠と関係しませんか?インターネットで見たんですが、確か痛みがあるため寝れない人がいるんですが、寝ている間は痛みが消える(正確には痛みが薄れるから寝れる)。大縫線核と青班核はレム睡眠時に活動が停止する。このレム睡眠は交感神経が興奮している状態ですから、その辺で疼痛抑制系がレム睡眠とノンレム睡眠の睡眠リズムで変わるのかなと。
吉村;それは知らなかったですね。何か論文が出ていますか?
荒木;睡眠学という本に書いてありました。疼痛抑制系がレム睡眠とノンレム睡眠で活動が起こったり停止したりするのかなと。
吉村;それは面白いですね。富山県に倉石先生がおられるんですが、帯状疱疹後神経痛のマウスをつくっているんです。動物は持ってこれないので、私が富山に行っているんですよ。それがどうも簡単ではないというのがあって、ちょっと頑張ってやらなければならないと思っているんです。

齋藤;どうもありがとうございました。では9月5日、よろしくお願いいたします。